「安達原」の舞台
安達原の舞台は奥州安達原。今の福島県二本松市あたりです。

《JR東北本線二本松で降り、右手に約2キロばかり。阿武隈川がゆったりと流れており、鬼女の墓と伝えられる「黒塚」あたりだけが杉野古木が並び昼でも薄暗い》

黒塚近くの天台宗観世寺の境内には鬼女が住んだと伝えられる岩屋があります。巨大な岩石にに仏像や経文が彫り込まれています。寺に伝わる伝説には「鬼女が妊婦の腹を切り裂いて生き肝を食ったがその妊婦は生き別れのわが娘と分かって狂乱、人肉食いの地獄道に落ち、祐慶阿闍梨の法力で打ち殺された」とあります。

上記のように、この街は鬼女伝説で暗いイメージを持たれがちですが、詩人高村光太郎が『智恵子抄』で安多多羅山の上の青い空が「智恵子のほんとの空」と歌った街でもあります。

平兼盛(百人一首「忍ぶれど」の作者)が従兄弟重之(陸奥守で現地赴任していたか?)に娘が多いと聞いて「陸奥の安達ヶ原の黒塚に鬼篭れりといふはまことか(娘たちは元気かい?とからかった歌・拾遺和歌集)」と歌ったこの和歌を素にして作られた物語だとされています。

(文責:N)

「安達原」の装束・作り物・小書について
装束・

前シテ:深井・無紅唐織(いろなしからおり)
  いろなしとは紅色を使ってないこと。
  青・紫・黄など、紅色以外のものが使われます。
  30〜40前後の年輩女性であることを表現しています。

後シテ:般若・無地熨斗目(むじのしめ)/縫箔腰巻(ぬいはくこしまき)
  無地熨斗目は紺・茶などの模様ある絹布の小袖です。
  縫箔は女役の着付。ここでは肩脱ぎといって右の袖を脱ぎ、腰に巻きます。

作り物

萩小屋
  大小前に設置。すすきをつけることもあります。
枠<かせ>輪(わくかせわ。<>の中には木に上下という漢字が入ります)
  正先におきます。シテが糸を繰ります。

以上がスタンダードな安達原ですが、流儀により様々な演出がなされます。
主な小書

白頭(観世・宝生・金春・金剛)
黒頭(観世・金剛)
赤頭(金剛)
  あたまに被るかつらに、それぞれ白・黒・赤毛を用います。
  白頭は役柄、曲の位が重くなります。
  白頭・黒頭では妖あるいは痩女の面を用いることもあるそうです。
  これらの小書では、シテは早笛で登場します。

急進之出(観世)
  白頭・黒頭いずれかを着用。
  シテは三ノ松まで出て舞台を見つめた後、一度揚幕の内に下がってから
  再び走り出します。
  退場も幕の内に走り込みます。留拍子はワキが踏みます。

長糸之伝(観世)
  次第、クセ、ロンギにて、枠<かせ>輪を使いて、糸を繰っては手を下ろし、しおる。
  たびたび手をとめて、糸を見る、輪を見する演出です。

(文責:映)

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