「熊野」あらすじ |
平宗盛の寵愛を受ける熊野は、このところ故郷に残してきた母のことが気がかりでならない。 何度か宗盛に暇が欲しいと願い出てみた。 しかし、熊野に執心する宗盛は暇の申し出を受け入れない。 この春、熊野の帰郷を待ちくたびれた母は、侍女の朝顔を迎えに出した。 宗盛邸にて、熊野は朝顔と再会する。 朝顔の携えてきた母からの文を見た熊野は、母の病の篤さに慄く。 この上は、宗盛の前に朝顔を同行し、またこの母の文を彼の目にかけ、暇乞いをしようと思い立つ。 しかし…。 宗盛は、自らその文を見ることもなく、熊野に読み上げさせる。 その文により母の病状、またその心細さを把握した宗盛であるが、この度の暇乞いも一蹴してしまう。 そして、熊野の心を慰めようと東山の花見に同行させる。 落胆の熊野を乗せた花見車は、宗盛邸をでて、鴨川を渡って、河原おもてを通りすぎ、六波羅、六道の辻、鳥部山、子安の塔と道をたどって、清水寺に到着する。 車を降りた熊野は、清水寺の千手観音に母のことを祈らずにはいられない。 お堂から立ち去れずにいるところ、急いで酒宴に同席するよう宗盛の催促をうける。 諦めの境地で、酒宴に臨席し、宗盛に所望されて舞い始める熊野である。 途中、にわかに振り出した村雨に舞いは中断される。 村雨に散らされる花を見て、たまらなくなった熊野は和歌を歌う。 「いかにせん 都の春も 惜しけれど 馴れし東の 花や散るらん」と短冊に認め、宗盛に差し出すと、宗盛もようやく納得して、熊野に暇を許すのである。 これも観音様のご利益と感謝しつつ、宗盛公の心変わりのないうちにと、その場にて故郷を指して旅立つ熊野であった。 (筆責 雲井カルガモ) |