今月の特集曲

「吉野天人」の内容
ひとり芝居風「吉野天人」
 〜ある桜好み男の世にも稀なる美しい出会いのお話〜


登場人物 私(桜好きの都人)
     桜好きの都人の友達
     謎の女

(プロローグ)
私は刹那を愛する都会人。
故に春には桜に心惹かれ、ここ彼処の桜を見に出かけている。
中でも毎年眺めているこの嵐山の桜は、吉野の桜に由来するものと聞いている。
今年は友達を誘って、その吉野を訪ねて見る事にしよう。
その地はきっと、雲が棚引くように、桜が咲き乱れているに違いない。
でかけよう。その花の雲を目指して。

(旅の途上で)
花を訪ねて旅をすると、桜達のつぶやきが聞こえる。
花達自身が言っていた。今年は一際見事に咲いていると。

(吉野にて)
いい朝だ。
吉野についた。
昨夜は雨だったのか。
唯でさえ見事な咲きぶりの桜達なのに、春雨の露にぬれたら一層の風情。
どうだい、みんな!
峯も麓も正に花の山ではないか。
さあ、もっと人里離れた奥の方まで分け入ってみよう。

(吉野奥山にて)
突然、女性に呼びかけられた。
驚いた。とても上品な美しい人だ!
そんな人が、どうしてこんな山中にいるのだろうか。
尋ねてみると、この辺りに住んでいるという。
桜を友として暮らしているのだそうだ。
私も花の友と言えなくもない。
きっと、桜が結んだ縁だ。
同じ桜を友とする私とあなたも友達、友達。
一緒に花を愛でましょう。
こんなに美しい人と、一緒にお花見できるなんて。
今日はますますいい日だ。

と喜んでいる間に、もう夕暮れ時だ。
不思議だ。
あなた、お家に帰らなくていいの?

(美女の告白)
これは本当に、驚きだ。
あの女性は天女だった!
ここで待っていれば、天女の舞いを見せてくれるという。
必ず来るからと言い残して、雲の間に消えてしまった。
彼女の再来をしばし待ってみよう。

(エピローグ)
花明かりの中、どこからとなく音楽が聞こえる。
そしてこの妙なる香り。
天から蓮の花弁も降ってくる。
素晴らしい。なんと有難い事だろう。
これも、帝の治世がよいからであろうか。
そう、見間違いではない。
今、私の目の前で天女が舞っている。
花爛漫の中で翻る羽衣。
天女が桜の梢に戯れている。
信じられずにいるままに、
時も移ろい、花も移ろい、
そして、いつしか天女も消えてしまった。

再びの静寂。
私達はただ、桜を見ている。
天女が消えた花の雲間を。

(文責:雲井カルガモ)

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