くりこ。の屋島探訪記 |
月並みな言い方だが、青く広がる海と空の間に島々が浮かび始め、 やがて屋島と呼ばれるその半島が、独特の台形の姿を現すのを、ただぼおと眺めながら、 あの形はどこかで見た。 ああ、そう。 星の王子さまに出てきた、象を飲み込んだうわばみの形ってあんなのじゃなかったっけ。 と、私は、春の瀬戸内からはあまりつながりようのない、 サン・テグジュペリの世界に想いを馳せていた。 いや、 うわばみの幻を見ていたのかもしれない。 象なんか飲み込んで、苦しそうなうわばみ。 気持ち悪そう。 気持ち悪い。 …そうなのだ。 アンニュイな導入部も、実はただの現実逃避。 神戸を出港してから、3時間半近く。 その時、私は船酔いの真っ只中にいたのである。 思えば、シェフが嬉々として私をパソコンの前に呼びつけ、 「ほらほら、くりこ。さん、神戸から船が出てるよ。ええやん、瀬戸内クルージング。 船で屋島って本当の源平合戦みたいでしょう。新幹線なんかよりずっと楽しいから。」 と言ったときから、いやな予感はしていた。 私はものすごく乗り物に弱い。 もちろん、新幹線にも酔うのだ。 同じ酔うなら、景色のいい方がいいかな〜と、 シェフの強い希望もあり、船で四国へ渡ることに決定したのであった。 明石海峡大橋を見、行き交う船を見、瀬戸内の島々を見、 確かに最高かもしれない。 この揺れさえなければ。 |
降りる降ろせと心で叫び、ぐったりしたところで、なんとか無事に船は高松へついた。 ところが、思ってた所とちょっと場所が違ったのだ。 想像していたよりも、屋島寄りの港に降ろされたのである。 港からは 高松築港行きのバスが出ているけれど、それでは屋島と反対方向だし、 地図で見る限りでは 琴平電鉄沖松島駅が近そうだ。 案内所で道を尋ねてみると、おばさんが丁寧に教えてくださった。 「…でも、歩かれるんですか?」 「?。歩けませんか?」 「いや、歩こう思えば歩けますけど。歩くんですね?」 地元の人は歩かない距離なのか、少し不安ではあったが、迷いそうな感じでもなかったのでお礼を言って、港をあとにする。 あ、うどん屋だ。 またうどん屋だ。 さすが香川。讃岐うどんブームもあってか、何mかおきにうどん屋がある。 そうこうするうち、線路が見えてきた。 なんだ、歩けるじゃないか。 ほっとして無人の駅のホームにあがると、すぐに2両編成の電車がやってきた。 ええ感じ。 琴電屋島駅で降りて向かったのは、まず四国村。 ここは、約3万平方メートルという敷地内に、実際に使われていた古い民家や農作業小屋などの建築物を、移築してできたものらしい。らしい、というのは実際には中に入らなかったからで、お目当ては四国村の入り口付近にあるうどん屋「わらや」。 (船酔いはどうなったんだろうか?) 生醤油うどんと釜揚げうどんで軽くお腹を満たして、屋島ケーブルへ。 ケーブルカーの駅って 比叡山でも男山でもなんでこんなに同じような感じなんでしょう。 レトロな趣というか、ほんとに年期入ってるというかのケーブルカーは、義経号といった。(ちなみに帰りは弁慶号だった) 義経はいいとして、屋島であんまり弁慶ってピンと来ないなあ と言ったら 「でも、教経号じゃ誰もわかんないよ」とシェフ。 ああ、能登守教経、破れたり。 |
屋島山上駅からは遊歩道が整備されていて歩きやすかった。 「談古嶺」と呼ばれる展望スポットからは、源平の古戦場「檀ノ浦」(あの壇ノ浦とは違うので注意!)が一望でき、また那須与一が扇の的を射たところや、義経の弓流し、平家軍船の泊地「船隠し」など、屋島の合戦の舞台が一望できる。面影はないけどね。 源平の合戦の頃は屋島は本当に島だったそうで、江戸時代になって間が埋めたてられてつながったらしい。 ちなみに私が勝手にうわばみ形と呼んだこの土地は正式には「半島形溶岩台地」である。頂上部が平坦で、その形状が屋根に似ているため屋島と名づけられたそうだ。 風の冷たい日だったので、景気づけ(!?)に「屋島キリ」など謡いながら歩いていると、いきなりどこからともなく、ギャ〜、ギョ〜、と人外の声が。 「屋島山上水族館」からの声だったのだが、時間も遅めだし、シーズンオフだしで、 暗い水族館から聞こえる何者ともわからない声は、本当に怖かったので、足早に通りすぎてしまった。 しばらくいくと、「獅子の霊巌」というところに出る。 ここは夕日が絶景らしく、「日本の夕陽百選」にも選ばれてるらしいのだが、夕日には時間が少し早かったようで(しかも曇ってきたし)残念ながら眺めることはできなかった。 是非みたいという方はこちらでどうぞ→ 朝日・夕陽の放送局 (夕陽百選/高松市) そして、屋島寺。 南面山千光院 霊場八十四番の寺である。 本堂は室町時代の再建といわれ、重要文化財千手観音座像が本尊。 ちょっと見仏の血が騒ぐところではある。 境内に、蓑山大明神という、狸の大将がまつられていて、事前にガイドブックで見て知ってはいたけれど、突然の狸の姿にちょっとびっくり。 屋島寺宝物館という、平安時代の薬師如来坐像や源平合戦の遺品など寺宝を展示してある宝物館があったのだけれど、時間の関係で断念。 帰りの弁慶号の時間が迫っていたので、駅へと急ぐ。 遊歩道の脇にならぶお土産物屋さんを眺めているうちに、1軒、土産物よりも食玩等のフィギュアを店頭のケースいっぱいに並べている店があり、誰とは言わんが見とれている奴がいたのが、時間が押した原因と思われる。 こんなとこまでケーブルに乗ってフィギュアの需要があるのか不思議で仕方がなかったのだが、翌日、別の場所で階段を何百段と登ってまで(しかも海を渡ってきているのだ)買い求める男の姿を目の当たりにすることになる。需要はあるもんなのだ。 ケーブルの中では、車内放送が流れる。 「祇園精舎の鐘のおと、諸行無常の響きあり…」 録音テープの声を聞きながら、もう営業していないホテルの跡を思いだしていた。 「ただ春の夜の夢のごとし」 バブルのはじけた後の観光地。 どんな思いでこのテープを毎日流し続けているのだろうか。 (くりこ。) |