能楽『経正』ちょっと解説 |
『経正』。平経正(武将)をシテとした修羅物の能。 修羅物といえば、普通は前後二場に分かれていて、 前場では主人公の幽霊が若い里男やきこりなどの仮の姿で登場し、 通りすがりの旅僧(ワキ)に回向を頼み、後場にて本来の武将の姿となり、 旅僧の夢の中に現われるといった構成ですが・・・ 『経正』は一場物で、法要の場にいきなりシテが現われます。 法要をおこなう行慶(ワキ)と経正(シテ)がよく知りあった関係である というのもおもしろいところです。 また、シテはカケリ(修羅道の苦患や戦いの様子などを表現)を舞いますが、 ワキに対して、戦いの苦しみを訴えたり、悲惨な最期を遂げた様子を 語ったりしません。 それよりも琵琶の音色を慕って現われて、夜遊のおもしろさに我を忘れ、 昔をなつかしみ、そして夜遊の興に別れなければならない、といった 雅やかな昔の生活にあこがれる平家の貴公子の心境をとりあつかっています。 他の修羅物とは少し趣の異なる優美な味わいのある曲です。 面は中将、または今若。(童子、慈童の場合あり) 頭髪は黒垂、梨打烏帽子をかぶり、白鉢巻をします。 装束は単法被、または長絹で肩脱ぎにし、大口をつけます。 腰にはもちろん太刀をさげ、修羅扇を持ちます。 (敦盛扇を用いることもあり。黒骨・妻紅で金地に日輪が描かれたもの) 小書としては、金剛流の「古式」(実物の琵琶を舞台に出す)や 喜多流の「烏手」(ワキが<サシ>を謡っているあいだに半幕で姿を見せて登場。 大小前か一ノ松に下居して笛の<烏手=琵琶の手を模したものといわれる>を聞く) というものがあります。 (文責:英) |