使用する面 |
能面−若女のつぶやき 皆様、こんにちは。ご機嫌は如何?若女です。そう、「若い女」です。 でも若さの点では、「小面」にはちょっと敵わないの。え、「小面」との違いが分からないって?困った人ね。 微妙とはいえ、ヘアスタイルだって違うのに。こめかみ辺りの髪のちょっとした流れがおしゃれでしょ。 「増」や「深井」の姉様方に倣ったのだけれどね。頬はひきしまり、口元は凛々しく、目元は涼やか。ほら、分かって頂けますわよね。 一言で表すなら、あふれんばかりの知性・・・と申しますかしら、そんなものと感じて頂けるかと思うの。まさに、才媛である和泉式部なんて、適役ではないこと? 観世流の鬘物と言えば、私。活躍の場はすごく多くってよ。 大人の女の色気を感じて頂きたいものね。 (文責:小梅) |
元になった和歌 |
今回は、 「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそみえね香やはかくるる」(凡河内躬恒 古今集) を取り上げてみたいと思います。 この歌の作者凡河内躬恒(おうしこうちのみつね)は、宇多天皇(法皇)お気に入りの歌人でした。宮中の歌合せや屏風歌などに、多く歌を残しています。紀貫之らと共に古今集の編纂にあたり、貫之(99首)につぐ60首を入集しています。その時代貫之と並ぶほどの代表的歌人でありながら、躬恒の生没年、家系(先祖)などは不明です。官位もさほど高い人ではなかったようです。 さて、上記の歌ですが、「春の夜の闇などしかたのないものである。闇であるゆえ梅の花の色こそは見ることはできないが、その香りまで隠すことができるであろうか。いや…。」という感じの気持ちでうたったものでしょうか。 「東北」では、クセのあと序の舞を挟んで、この歌が出てきます。 「東北」のクセというのは、往時の東北院(上東門院)の回想シーンでもあります。全く全く私的見地ですが、抹香くささゆえか、私が心に描くクセの場面は、せいぜい月の光に色がつく程度のモノクロームの世界です。 その静かな薄暗い世界に梅の芳香が漂い始め、一転してキリの冒頭で、色香にとんだ和泉式部の華やかなエピソードが想起されるにいたります。香りのもつ生々しさが意識を誘導してくれるのです。 そして夢から覚めたワキ僧の周囲にも、現実の軒端の梅が芳香を漂わせていることでしょう。 梅の香りは、この曲では夢幻と現実の橋渡しの役割をも担っているのです。 (文責:雲井カルガモ) |