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能「東北」の舞台となった東北院は、京都市左京区浄土寺真如町にひっそりとあった。 立ち入り禁止となった境内には、今季の盛りは過ぎてしまった軒端の梅が立っていたが、枯れ枝の状態でさえ枝ぶりからは気品が感じられ、通り過がりにふと足を止めてしまうようなそんな存在感があった。 花というのは気まぐれなもので、なかなか見頃の時期には行き会えない。まれに見頃の花に出会った時は運命さえ感じることがある。 梅の花と和泉式部が織り成す幻想の世界に浸りながら、まさしく旅の僧も運命を感じたに違いない。 (文責:麗華) |
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「東北」では作り物は登場しませんので、今回は扇についてです。 能でシテが手にする扇に中啓があります。これは仕舞の時などに用いる鎮扇に比べ、少し大きめの1尺1寸5分、扇骨も15本と多いです。親骨が途中から外側に曲がっていて、たたんだ状態でも末広がりにひらいてます。絵柄や色調が曲趣や役柄により異なる為、その種類は豊富で百数十種にも及ぶそうですが、神扇、鬘扇、修羅扇、鬼扇などに大きく分類ができます。 「東北」では鬘扇を用います。鬘扇の扇骨は黒塗りで、金箔を押した地紙の左右両端のあたりは紅色に染めてあります。(妻紅といいます。)絵の題材は、表は唐の玄宗皇帝と楊貴妃、それを囲む唐美人といった人物画、裏は季節の花木、花卉で飾られた花車の図が多く、風流で雅び、優美な女性を表現するものとなっています。 ところで、夢幻的な曲目では扇をかざした際に現実の人物の絵が見えないよう、桜の立木や藤棚など花だけの扇を選ばれるそうです。能全体の調和の大切さが扇一本にも現れるように思います。 閉じて持たれることが多い扇ですが、美しい鬘物の「東北」では形処や舞の途中に注意して、ぜひ、その華麗な絵柄を楽しみたいものです。 (文責:映) |