「龍田」みどころ |
ちはやふる神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは これは在原業平が、竜田川の美しい紅葉を詠んだ百人一首の歌です。「龍田」は、竜田川の紅葉にちなみ、竜田明神の神徳をたたえたもの。竜田明神の神体・竜田姫が、舞を奏で、国土安穏をもたらすという脇能に近い四番目物です。 竜田明神の御神木は紅葉である、ということになっています。これは松や杉など常に色変わらぬ樹木の不思議への畏れと等しく、美しく色変わる紅葉に対しても古代人は神聖なものを感じたのでしょう。もっともこの曲は、そうした事よりも、有名な古歌をからませ、紅葉の美しさを讃えながら、一曲の主題である神楽を見せるように構成されています。 同じ神楽物でも「三輪」や「葛城」ではいずれも多分に物語的な内容になっており、純粋な神として崇められる以前の人間的な苦悩を持った神がシテです。その点「龍田」は趣を異にしています。最初から巫女の姿で現れ、余分の話をせずに龍田の明神の由来を説きます。作り物も一畳台に小宮を用い、巫女ではなく女神自身が社殿から出現して神楽を舞うことになります。清澄な、昇華されたものをねらっているといえます。従って切番神能としても扱われ、三番目女能の雰囲気もそなえています。 (文責 ヒロ☆) |