今月の特集曲

「龍田」あらすじ

晩秋の夕暮れ時、旅の僧が竜田川にたどり着いた。奈良の都から河内へ抜けるため、龍田越えしてきたのだ。この川を渡って龍田大社に参るのだ。

その時、幕の中から女が呼びかける。
「その川を渡ってはなりません」
「不思議なことを言う。龍田明神にお参りするのに、どうして龍田川を渡ってはいけないのかね」
女は巫女だ。和歌を引用して竜田川を渡ってはいけないのだと諭す。

−竜田川 もみじ乱れて流るめり  渡らば錦 なかや絶えなむ−(古今和歌集)

「竜田川は紅葉の葉が散り敷き乱れ流れています。あなたが無粋にもこの川を渡ればこの錦の帯が途中で切れてしまいます」
斑鳩の郷の秋遅く、竜田川には薄氷が張っている。透明な氷に閉じこめられた紅葉の葉。これを踏み壊して川を渡るのは神慮に背くというものだろう。
巫女は旅の僧を龍田明神に案内する。冬枯れなのに社頭に今を盛りと紅葉の大樹が燃えていた。
三輪明神の神木は杉、龍田明神の神木は紅葉。旅の僧はありがたさに合掌するのだった。
巫女は宮巡りの案内に立ち舞台を一巡し「私こそ龍田姫なのです」と明かして扇で御殿の扉を押し開くように作物の中に消えて行く。

アイ狂言が居語りで龍田明神の御神徳を語り、旅の僧が神前で夜を明かす。

出端の囃子で後シテ龍田姫の神が引き回しの中から「神は非礼を受け給わず」と威厳に満ちた呼び掛け。後見が引き回しを下ろすと中から天冠をつけた美しい龍田姫の神が現れる。
「そもそも滝祭の御神とは当社のこと。民が豊かで安心して生活出来るのも当社のおかげ。山も動ぜず海辺も静かで楽しみの多い秋。紅葉は落葉して今は薄氷の下。ここを渡ったら氷も紅葉も踏み絶えてしまう。そんなことはできようか」
龍田姫の神は扇を胸指しして竜田川の幻想的な薄氷と紅葉の色彩の供宴に見入り舞台を大きく回る。
散る紅葉は神に捧げる幣だ。それを吹きつける山風、降りかかる時雨は鈴の音のよう。吹き乱れ、また吹き乱れる紅葉の中、華麗に神舞を舞い、神は天上世界へと昇天して行く。

(文責 ヒロ☆)


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