猩々の解説 |
作者、原典は不明です。 現行では、一場物の曲ですが、元来は前後二場物であったようです。めでたい内容なので、一日の番組の最後の祝言の能として、半能形式で演じられているうちに、そのほうが面白い!ということになったのでしょうか。いつの間にか半能形式が常の型となりました。 シテ(猩々)の舞は常は「中ノ舞」ですが、代わりに「乱」(みだれ、と読みます。)が舞われることのほうが多いです。こうした演出の際は曲名を『猩々乱』とか『乱』といっています。 乱という舞は、曲の前後に中ノ舞に準ずる部分があり、真ん中に乱特有の囃子と舞がくるという構成になっています。酔った猩々が波間に浮きつ沈みつする姿を表現するため、頭を振ったり、身体を深く沈めたり、またヌキ足、乱レ足、流レ足などを用います。足拍子はたてません。囃子も一クサリごとに緩急があっておもしろいですよ。 以上は一般的な乱です。このほかにも各流でいろいろな演出(小書)があります。 たとえば、 「乱掛」(観世)、 前の中ノ舞っぽいところがなしで、すぐに乱になる。 「乱留」(観世)、 乱の後の中ノ舞っぽいところがなしになる。 「双之舞」(観世・金春)、「和合」(宝生)、「和合之舞」(金剛)、「二人乱」(喜多)はシテとツレの二人の猩々が出てきて相舞で乱を舞います。 「置壺」(観世・金剛)、「壺出」(喜多)は最初に作り物の壺を正先に出し、ひしゃくで酒を汲む演技があります。 「七人猩々」(宝生)、 六人のツレの猩々が出てきます。 『猩々』に似た曲で『大瓶猩々』(観世流。たいへいしょうじょう、と読みます。)という曲があります。『猩々』の原曲をおもわせる前後二場物で、前シテは童子、後シテは猩々、ツレに四人あるいは六人の猩々が登場するんですよ! 必見! |
猩々って何だ! |
[講談社カラー版 日本語大辞典]によると 「猩猩」(しょうじょう) 1. 中国の想像上の怪獣。サルのような顔をもち、毛は朱紅色で長く、人語を解し、酒好き。 2. 大酒を飲む人。酒豪。 3. オランウータンの異名。 ということです。 1.については手元の漢和辞典にも『礼記』の「曲礼」出典として 「猩猩能言、不離禽獣」(人の言葉を解し、最も人類にちかい。)とあります。 で、(わし流の勝手な解釈ですが)おそらく、漢民族の人たちが、揚子江上流の内陸部に住む異民族をみて、(あるいは、見たという人から話を聞いて) 「どうも自分たちとは風習や習慣が違うぞ。文明的な暮らしじゃない・・・。なんだか気味悪い。」ということで、「やつらは人間じゃない!犬やサルみたいだ。きっと赤い怪獣なんだ!!」というようになったのではないでしょうか。 容姿も日によく焼けたせいか、赤かっただろうし、髪の毛もぼさぼさでワイルドに見えたのかな?あるいは、夜中に焚き火をかこんで、酒飲んで蓑笠かぶって踊ってるのを目撃されたのかもしれん。 2.については、1.の酒好きというところつながりですよね、きっと。3.は、上海の動物園に行ったときに、「猩猩館」という動物舎がありまして、入場したら確かにオランウータンさんやおサルさんたちが住んでいましたよ! 能楽の『猩々』は「童子のごとくなる者」ということなので、ひとまず、怪獣じゃなくて、ほっぺの赤いかわいらしいこどもの妖精と思えばいいんでしょうかね? (文責:映) |