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中国・金山の麓の揚子というところに高風(ワキ)という男がおりました。 親孝行者の彼はある夜、不思議な夢を見ました。「揚子の市に出て酒を売って作れば、富貴の身になりますよ」とその夢は告げるのです。 高風はさっそく夢の教えのとおりにしました。すると、本当にしだい次第にお金持になっていったのでした。 そんな高風にまた、不思議は出来事がおこりました。 童子のような姿をしたものが一人、高風の店に来ては酒を買い、飲みます。 しかし、なんと!いくら飲んでも顔色がちっとも変わらないのです。 どうしてだろう? 高風はその者に名を尋ねると「(私は)海中に住む猩々です。」と言って、酒つぼを抱きかかえて、海の中に入ってしまいました。 そんなことがあって、ある月の美しい夜に、高風は潯陽の江のほとりにやってきて、壺に酒をなみなみと満たし、かの猩々が現れるのを待つことにしました。 不老の薬ともいわれる、菊の花を浸した水・菊の酒を慕って、そして、わが友・高風に会うことをうれしく思い、猩々(シテ)は海面より浮かび出てきます。岸辺には冷たい秋風が吹きますが、再会のうれしさと酒を酌み交わす喜びで、二人は少しも寒くありませんでした。 空は晴れて月も星も光り輝き、蘆の葉のゆれる音はまるで笛の音のよう、川波は鼓の調べのようにきこえます。酒盛りをして酔いながら、猩々は舞を舞います。 そして、猩々は高風の心の素直さに感心して、酌んでも酌んでも尽きることなく酒の湧き出る壺を、彼にさずけます。 「よも尽きじ、酌めども尽きず、飲めども変わらぬ、秋の夜の盃」 そう言いながら、猩々は足元をよろよろさせ、たおれ臥したのでした。 やがて、高風は夢から目覚めました。すべては夢だったのかと思いきや、泉のように酒の湧き出る壺はちゃんと残っておりました。 おかげで、高風の家は末永く栄えたということです。本当にめでたいことです。 (文責:映) |