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ある春の夜のこと。源頼光は長雨のつれづれに家来たちと酒宴を開いていた。その最中、平井保昌が「羅生門に鬼が出るとの噂がある」と言い出す。それを聞いた渡辺綱は「この平和な御代に鬼の居場所はない」と反論し、激しい口論となった。 武士の意地にかけて、その実否を確かめようと、綱は羅生門へ赴くこととなり、頼光から行った証拠に立てる札を賜り、酒宴の場から立ち去った。 豪雨の中、羅生門にたどり着いた綱が証拠の札を置いて帰ろうとしたところ、何者かに後ろから兜をつかまれた。振り向くと、そこには羅生門ほどの身の丈をした鬼神が立っており、綱を睨みつけていた。 両者は死闘を繰り広げ、ついに綱は鬼神の片腕を切り落とし、その名を天下に広めたのであった。 |
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シテが後半だけに登場し、しかも謡(うたい)がまったくないという異色の能であるが、得体の知れない鬼神の不気味さを示すのに効果がある。また作り物の中で上から手を出してワキの兜を引きちぎるという演出も、同じような効果があるといえよう。 この曲は、前場と後場で異なった「争い」が描かれている。 前場では、酒宴の中での言葉上の争い、後場では深夜の羅生門で無言のうちに繰り広げられる力と力の争い、つまり「静」と「動」である。 ワキ方で重く扱われ、上演はまれである。 (文責:とりあ) |