あらすじ |
都の僧が東国行脚の途中、相模の国六浦の称名寺を訪れると、山々の楓は紅葉しているのに本堂前の楓がまったく紅葉していなかった。 不思議に思っているところへ里の女が現れ、紅葉していない理由を語りはじめた。 以前に鎌倉の中納言、冷泉為相がここを訪れた際、山々の紅葉はまだなのにこの楓だけが紅葉していたので いかにして此一本にしぐれけん山にさきたつ庭のもみぢ葉 という和歌を詠んだ。それを聞いた楓は光栄に思い、 功成り名遂げて身退くはこれ天の道なり の古句にならい、その後は紅葉することをやめ、常緑樹(ときわぎ)となったのでした。 里の女は、草木には皆心があることを語り、仏法を説くよう僧にたのみ、消えてしまった。 その夜、僧が夜もすがら読経しているところへ楓の精が現れ、梅、桜、卯の花という季節の花の移り変わりを語りながら舞い、木の間の月に紛れて消え去った。 |
装束・使用する面 |
装束 前シテ:唐織(色入・色無) 後シテ:長絹 緋大口 使用する面 色入の時:増女 色無の時:曲見・深井など この曲は、色入にも色無にもなるという珍しい曲です。 色入、色無というのは、装束に色(紅)が入っているか入っていないかということ。 若い女性は色入の装束を、年をとった女性だと色無の装束を着ます。この曲の場合、“楓の精”ということだと色入ですが、“為相に歌に詠まれてから紅葉するのを止めた楓の精”と考えると色無となります。 (文責 とりあ) |