みどころ |
青年同士の友情と思慕をテーマにした珍しい作品である 『古今集』の序に「富士の煙によそへて、松虫の音に友を忍びて」云々とあるのに想を得たのかと思われる。室町時代の文芸には、男色を扱った作品は多いが、能の現行曲にはこの「松虫」以外、ほとんど残っていない。 本文では、探しに行った男のその後にふれていないが、間語りでは、続いて自害したので、二人を一つ塚に埋めたとある。 普通は中入前に前シテが亡霊であることを明かすと、すぐに消えるが、この能では、一度橋掛りまで行ったシテを再び呼び戻してロンギがあるという珍しい構成である。 後シテは幽霊ということで、黒頭をつけ怪士(あやかし)系の面をつけるが、怨霊ではなく、ひたすら思慕にふける男の霊魂でなので、〈黄鐘早舞=おうしきはやまい〉という特殊な舞を舞う。これは〈男舞〉に似た、きびきびとしながら、やや哀愁のある舞で、「松虫」と「錦木」だけにある。 後場では、亡き友との交情をあまりくどくど述べず、酒を讃え、虫の音をめでることに重点がおかれているので、男色の感じが薄らいでいる。 当時、松虫といったのは、現在の鈴虫のことだとされている。 (文責 ヒロ☆) |