あらすじ |
三熊野に千疋の巻絹を納めよとの宣旨があった。 その任務を任された臣下は、国々より巻絹を集め、その使者たちを、熊野本宮にて待っていた。約束の刻限は過ぎている。残るは都からの使者のみである。 重荷を背負い、険しい山々を分け入って、やっと使者は三熊野のお山にたどり着いた。 ほっとして音無の天神を参ると、梅がほのかに香っている。 匂いの主を探すと、そこには冬梅が咲き初めていた。 使者は心の中でその梅を歌に詠み、神に手向けて臣下のもとへ急いだ。 しかし臣下は、都よりの使者の遅参(勅命を軽んじたこと)を咎め、使者を縛り罰する。 そこに、一人の巫女が現れる。 巫女には音無天神が憑いていた。 そして、使者が遅れたのは、昨日音無天神に参詣し、神に和歌を手向けていたためであるゆえ、その縄を解くように告げる。 身分の低い男が、歌を詠むとは信じがたいと臣下が返せば、巫女は手向けた歌の上の句を男に問うように言い、自分が下の句を続けようと述べた。 臣下が使者に上の句を問えば、使者は「音無にかつ咲き初むる梅の花」と上の句を詠み、巫女が「匂はざりせば誰か知るべき」と下の句を歌い継いだ。 こうして使者の無実を明らかし、巫女は自らその縄を解いてやり、和歌の徳を語り始める。 やがて、臣下の求めに応じ、巫女は音無の天神を坐に上がらせ給うべく祝詞を上げ、神楽を舞い始めるが、より狂おしい様子となっていく。 神楽のあとは、神憑の態がいよいよ濃く、数々の三熊野の神仏がその身に憑いてどんどん物狂おしく神語りをしていたが、「神は上がらせ給う」という声のうちに心霊は離れ、巫女は本性に帰る。 (文責:雲井カルガモ) |