今月の特集曲

くりこ。の鞍馬山紀行

天狗 すっきりと晴れ渡ったその朝、休日で、通勤ラッシュは関係ないはずなのに、リュックを背負った登山姿の中高年ですし詰め状態の京阪特急の中で、早くも私は、人混みに酔っていた。

ああ、このはじまり方、「屋島」の時と一緒やん。

自分の三半規管の脆弱さを呪いながら、待ち合わせ場所の出町柳駅へと向かう。
本日の参加者は、とりあ先輩とやまんばちゃん。

「まーかせてっ!!」

とデジカメを活用したくて仕方のないやまんばちゃんは、
自らカメラマン役をかって出てくれた。
ありがたいんだけど。
長年のつきあいで、彼女の腕前を知っているだけに、一抹の不安は隠せない。

「もちょっと右〜、あ、行きすぎ左〜。はいスト―ップ。」

と散々、被写体を動かしといて、現像してみると「で、結局何を撮りたかったんでしょう」な写真ができてきたのは、一度や二度ではない。いや、そんな彼女だからこそ、失敗しても撮り直せるデジカメとの相性はいいのかも…。

鞍馬駅出町柳駅から、叡山電車に乗り換えて、終点鞍馬駅まで。
山の緑が目に心地よい。

「今日はね、たっぷり撮れるように準備してきたからね。」

やる気満万のやまんばちゃん。
駅におりたつと早速、ホームに飾ってあった天狗の面を撮りまくる。


ホームを出ると一際大きな観光者向け看板が。
ここにも、牛若丸と天狗のイラストが描かれている。

牛若天狗
階段
鞍馬といえば「鞍馬天狗」。
一般常識なんですね。
だから、そんなに撮らなくてもいいよ、やまんばちゃん。
土産物やさんの犬まで撮りそうな勢いのやまんばちゃんを引っ張りつつ、
御土産物を覗きながら、仁王門へと向かった。

仁王門は俗界から浄域への結界とされている。
湛慶作と言われている仁王尊像に、しばし見惚れ、いざ浄域へ。

「じゃあ、私書く人だから、いとうせいこう ね」
「え〜私が画像担当だから、みうらじゅん?」

アホな会話をかわしている間に、とりあ先輩はさっさと入山料を用意されていた。
俗にまみれた私達であった。

仁王仁王足


魔王の滝階段を上がってすぐの普明殿からケーブルが出ていた。
およそ、ケーブル乗り場とは思えないような、立派な建物。
せっかくのお山を満喫するべく、登山道を選択する。
途中、修験者が水垢離していたといわれる魔王の滝(現在は落石等危険があるため使用されていない。滝にうたれないように、と注意を促す看板があり、ちょっとびっくり)等、撮影も順調に、10分くらいも歩くと 由岐神社に出た。

由岐神社は天慶3年(940年)に、鞍馬寺が御所から勧請したもので、
祭神は少彦名命(すくなひこなのみこと)。
名前は矢を入れる靭(ゆぎ)を祀ったことから由来する。
遷宮の際に、道々に焚いた篝火が、現在の「鞍馬の火祭り」のもとになっている。
篝火
ここで、とりあ先輩、やまんばちゃん、本日1箇所めのご朱印もゲット。

由岐神社から進んでいくと、見えてくるのが、義経公供養塔(東光坊跡)。
牛若丸が7才から約10年間住んでいた場所といわれる。
ということは、ここから兵法を習いに行っていたんですね。
ここ、よく覚えておきましょう。

ここから、九十九折参道(つづらおりさんどう)と呼ばれる道が続く。
その昔、清少納言が「近くて遠きもの」と例えたのもわかるような気が。
陽射しも強まり、汗がとまらない。
歩みも少しペースダウンしかけてきたところに、悠長に犬を散歩(しかも小型犬)させている人などもいて、地元の方の健脚ぶりに舌を巻く。

「ん〜。あれ?」
突然、やまんばちゃんの不吉な声。
「もう、メモリがない」
「えっっ!!!!」
何枚撮ったのだ、やまんばちゃん。
「おかしいなあ。もっとたくさん撮れるはずなんだけど。」
あの、もしもし、まだ本殿にさえ到達していないのだよ、私達。
「あと、何枚かは撮れると思うんだけど…。」
土産物屋の犬なんか、撮ってる場合ではなかったのだ。
いや、消せばいいのでは?
「ためしどりのんとか、消したんだけど、あんまり効果なくって」
おかしいやん、それって、明らかに。
しかし、どれどれ貸してみ、と言える私達でもないのであった。


そうこうしているうちに、やっと本殿金堂に到着。
本尊はここでは尊天と呼び、
月輪の精霊「千手観世音菩薩」が愛を、
太陽の精霊「毘沙門天王」が光を、
大地の精霊「護法魔王尊」が力を司り、三身一体として祀っている。
毘沙門天のお使いを寅としているため、ここでは「狛犬」ならぬ「阿吽の寅」が左右に置かれている。
本日2つめの ご朱印をゲット。

霊宝殿では、鞍馬山の文化財や動植物の標本を展示していた。
御目当てはもちろん、きのこコーナーでは決してなく、
国宝・木彫毘沙門天立像。
妻子持ちなんですよね。
吉祥天さんと、善膩師童子と親子水いらず。
だから、という訳でもないのだが、
その横に一人でおわす、重文・木彫鎮将兜祓毘沙門天立像や、その他の毘沙門天様、
中でも顔だちがシャープで、ちょっと若作りな毘沙門様がかなり気にいり、
畳にべたりと腰を落ちつけ、見惚れることしばし。
いや、たんに冷房が気持ち良かったのか。
木の根
さあ、まだ先は長い。
名残惜しいが、イケメン毘沙門天様に別れを告げ、道を急ぐ。
急ぐといっても、ここからが本格的に急な山道。
息もしだいにあがってくる。
3人、だんだん会話もなくなり、
昼なお暗い坂道を、ひたすらに登ってゆく。
岩盤が固く、地下に根をはれない杉の木の根が地表に露出し、見事にアラベスク模様を描く、木の根道。

牛若丸が夜な夜な兵法の稽古をしていたというが、
さて、住まいの東光坊は、どのくらい前でしたでしょうか。
さすがに、若さだ、牛若丸。

多杉大杉権現社は ちと回り道になるので、とりあ先輩はパスして先に進み、私とやまんばちゃんとで寄っていくことにする。
千年近い樹齢を保ち、「護法魔王尊影向の杉」として、信仰を集める大杉権現。
折しも、大杉権現の歌(ご詠歌みたいなもの?)を歌いながら山道をゆく集団に遭遇。
こちらも負けじ、とは思うが、ここで鞍馬天狗を謡う勇気も元気もなく、お参りだけして、とりあ先輩を追った。

少し下り坂になって僧正が谷不動堂に出る。
こここそが、謡曲、鞍馬天狗の舞台。
鍋をかこんで宴会をしている人達がいた。
何故、花もないのにこんなところで!?
「しかれどもまたかやうに申し候えば、人を選み申すに似て候ふ間」
先を過ぎ、奥の院魔王殿でやっととりあ先輩に追いついた。

魔王殿ここは今から650万年前、金星から地球の霊王として天降った護法魔王尊が奉安されているという。
ここまでくれば、西門はもうすぐ。

貴船へと抜ける。

さあ、貴船でご飯食べて、帰りましょう。
あ、「鉄輪」紀行も行っとく?
いえいえ、また次の機会、ということで。


懸念のやまんばちゃんのデジカメはなんとか、魔王殿まで持ち応えてくれたようだ。
しかし、後日、
「送るよ〜」
と彼女からきたメールの添付ファイルは開くことができなかった…。

(文責:くりこ)

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