今月の特集曲

壮麗豪華娯楽任侠活劇「鞍馬天狗」

作者 大佛次郎
 前シテ 倉田典膳 
 後シテ 鞍馬天狗
嵐寛寿郎が演じて一躍人気となった。

…と、誰でも一度はボケてみたい「鞍馬天狗」。(そうなのか?)
そういえば、鞍馬天狗=草刈正雄・杉作=伊藤つかさ、なんてのもTVでありましたな。

時は春。
所は京都、鞍馬山。
雲珠桜(うずざくら)の名所とされております。
山中、西谷の桜はまさに満開。ことに今年は一段と美しく、
鞍馬の僧達は西谷、東谷、皆さんお誘いあわせの上、花見へと繰り出しました。
が、そこには見なれぬ先客の僧が一人。
彼は僧正ヶ谷という鞍馬の奥に住んでるそうで、彼もまた見事な桜に誘われて、出てきていたのでありました。
花見とは言っても、まあ花ばかり見ているわけでもありません。
子供はやかましいわ(賑やかに稚児さん連れてきてはりますからね)
従者の寺男は踊りだすわ(舞いを舞うといえば格調高いですが)
集団で来てる方は、だんだん盛りあがりをみせて参ります。

僧正ヶ谷の僧も、その様子があんまり楽しげであったのでしょう、
遠くからながめたりしておりました。
ところが、寺男がそれに気づきまして、追い払おうとする。
いけずな男ですわ。
西谷、東谷の僧達は、それを押しとどめましたが、かといって彼を招いて一緒に花見をするわけでもない。
うちの稚児さんはそこらの稚児さんとは違う。恐れ多くもええとこのお子ばかりをお預かりしてるんやから、そんな得体の知れない輩とは一緒にはいられしません、とばかりに宴もそこそこに帰っていってしまいました。

後に残されたのは 僧正ヶ谷の僧。
そして、一人の稚児。
花を見るのに、身分なんか関係あるかい!
僧としては おもしろくありません。

「ほんまですわ。ちょっとこっち来て僕等だけで花見しませんか?」

くさってるところへ、思いもかけない優しい稚児の言葉。
これがまた たいそう可愛い、綺麗な顔立ちの男の子で。
僧、ちょっと ぽおっとなります。

「人に一夜をなれ初めて 後いかならんうちつけに
 心空にならしばの 馴れは増さらで 恋の増さらん悔しさよ」

って、おっさん、おっさん、いい気になりすぎ。

一緒に桜を愛でながら、稚児は ぽつりぽつりと、身の上を語ります。
帰ってしまった稚児達は、今をときめく平家の子。
置いていかれたこの子こそ、
父は源義朝、母は常盤。3人兄弟の末っ子、沙那王でありました。
今は落ち目の源氏であるため、仲間はずれにされ、つらい毎日を送っているのでありました。
よっしゃ、おっちゃんにまかせとき。
おっちゃん、こう見えても、顔きくねん

〜われこの山に年経たる 大天狗はわれなり〜

「そんな平家なんて倒したり。
 明日、僧正ヶ谷へ来たらケンカの仕方教えたるさかいにな」

そう言って、
不思議や不思議、僧は雲を踏み越え、飛びさっていってしまいました。


さて、翌日。

まず集うは木の葉天狗や小天狗達。
そう簡単に強なれる思てもろたら、困るなあ。
まずは俺らで可愛がったらんと。
鼻いきは荒いが所詮は雑魚。
沙那王はん来はったで〜の一言に、

「今日はこれぐらいにしといたるわ〜っ」

と一斉に散ってしまいました。
沙那王はといえば、薄花桜の単に顕紋紗の直垂。
きりりと結んだ鉢巻姿もりりしく、薙刀持って気合も入り、惚れ惚れするような出で立ちであります。

そこへ、件の僧、登場。
いや、その姿はもう僧業ではなく、羽団扇を手にした、大天狗でありました。

「ようきはったな。
ほかでもない、おっちゃんが実は天狗の世界をシメててな。
筑紫の彦山・豊前坊、白峰の相模坊、大山の伯耆坊、あのへんは
みんな おっちゃんの舎弟や。」

実は天狗界の首領、ゴッドファーザーであった 僧正ヶ谷の僧。
えらい人と近づきになったもんです。
中国の故事やら、ちょっと説教は入るものの、
沙那王、打倒!平家のための兵法をあますところなく伝授してもらうことができました。

「ええか、きっと平家を倒して、源氏の御家を再興するんやで。
 あんたのバックには天狗がついてるさかい、よう頑張りや。」

おっちゃん、ありがとう!
縋る沙那王を名残おしそうに振りほどきながら、
梢に翔けって消え失せた天狗が、最後に

「沙那王、日本の夜明けは近いで!」

と、言ったかどうだか。
それは ご想像におまかせして、まずは「鞍馬天狗」一巻の終わりでございます。

(文責:くりこ。)

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