「小督」の舞台 |
能楽「小督」は、源仲国が高倉天皇の宣旨を受け、嵯峨野へ小督を探しに行く所からはじまります。 勅使が仲国の邸を訪ね、高倉天皇の御書を渡し、嵯峨野では「たゞ片折戸したる所と」しかわからないと言うと、仲国は今宵は十五夜なので、小督が琴を弾かない筈はないし、小督の調べは良く知っているから、ご安心なさいませと答え、寮の御馬を賜って、月夜の中を嵯峨野を目指して走って行きます。 中入りで、場面は嵯峨野に変わります。 平家物語では、『明月に鞭をあげ、西をさしてぞ歩ませける。男鹿鳴くこの山里と詠じけむ、嵯峨のあたりの秋の頃、さこそはあはれにも覚えけめ。片折戸したる屋を見つけては、この内にもやおはすらむと、控へ〜聞きけれども、琴弾く所はなかりけり』とありますが、このように探し回った末、法輪寺のあたりまで来ると、小督の弾く「想夫恋」の調べが聞こえてきたのです。 この曲は嵯峨野の雰囲気に本当に良く合う。 仲国は使命を果たすために嵯峨野に来たのですが、秋の夜長に琴の調べを頼りに1人の女性を探すのはとても風流なことだと思います。 (文責:麗華) |
「小督」に使われる作り物・小道具 |
作り物は単に舞台の背景であったり、所作に必要なだけの存在ではありません。その曲の主題を視覚的に表現し、時に劇的な場面転換に欠かせない、演技・演出に深く関係するものです。 「小督」で用いられる作り物の門(片折戸・柴垣附)も家徴化された簡単なつくりですが、嵯峨野の賊が家として舞台に風情をそえつつ、仲国、局、潜在的登場人物の帝の心的情景をも伝える役割を担っていると思われます。 典拠「平家物語」にあるよう「片折戸をしるべにして」、仲国は名月の嵯峨野をめぐります。片折戸の家を見つけては、「この内にもおはすらん」と控へ控へ聞くのです。やがて琴弾く局の隠れ家を尋ねますが、局は戸を閉じて中へ入れようとはしません。御文を渡すべく、「門閉されては叶ふまじと樞を抑え」、また「柴垣の下に露にしおれて」も帰りはしません。まさに中垣の隔てが表現される重要な場面であり、作り物のはたらきを感じるところとなっているのではないでしょうか。 (文責:映) |