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連載小説 〜夕顔の花精と夕顔の女 in謡曲『半蔀』 (前回までのあらすじ) 平安の御代、世の女人方を惑わしているとすっかり誤解してしまった源氏の中将は、満たされぬ女性(にょしょう)への思いをその量でごまかしつつ、都の方々に浮き名を流し流し暮らしていた。 と、ある夏の宵、夕顔の花精に導かれるように、夕顔の上との縁を得てしまった。理想の女(ひと)と有頂天になったのも束の間、夕顔の上はあっけなく息絶えてしまったのである。 ◆半蔀の巻(一) 「夕顔の花でございましょう」 消え入らんばかりのはかなげな姿のその若い女性は答える。 それは夏のお籠も終(つい)えるに程近い花供養での出来事であった。 「私は五条近くの者」と風の呟きとも紛うばかりの声のみ残し、一時の間に花陰に隠れたその女性の跡を辿るように私はここまで来てしまった。 如何雲林院の住僧とは云え、女性に心動かされるとは。 あれは夕顔の花精なのか、それとも夕顔の上だったのか。 所の者の語る夕顔の上の物語のなす王朝の残影と夢の交差。いつしか半蔀を押し上げて現れた美しい女を、私は確かに見た。 恋に恋する乙女そのままに、美しい女は、源氏の中将との恋を「契りの程の嬉しいこと」とまで語った。 それは、まるで舞を舞っているかのようであった。 暁を告げる鳥の聲を聞くまでは。 (文責:めぐ) |