今月の特集曲

 「羽衣」の舞台
能楽「羽衣」では、静岡県清水市の(三保の松原)に天人が舞い降り駿河舞を舞って帰ってゆきますが、『駿河国風土記』の「三保松原」では漁師が羽衣を返さないので天女は漁師の妻になり、羽衣を見つけると天に帰ってしまいます。

『丹後国風土記』にも羽衣説話があります。
話のあらすじは天の八をとめが降りてきて水浴びをしていると、老夫婦がやってきて密かに1人の天女の羽衣を隠し、子供がないので養女になってくれと天女に頼みます。
天女は養女になりますので羽衣を返して下さいと言うと、老人は疑って羽衣を返せば天に上がるのではないかと言います。
すると、天人の心はまことを以って本とするのにどうして疑って羽衣を返してくれないのかと答えると、老夫婦は人間世界は裏切りが多いので言ったまでですと言って羽衣を返します。

この天女は酒を作ることが上手で、また高い所に水をひくのが上手だったので、村は天女のおかげで豊かになり老夫婦も豊かになったのですが、老夫婦は置いてあげただけなので出て行ってくれと言います。
すると天女は嘆いて、貴方達が頼んだから残ってあげたのにと言いながらもやむを得ず出て行きますが、最後に奈具の村にやってきて、村人達に慰められて、やっとその地にとどまりました。それが豊宇賀能売命です。

『丹後国風土記』の中で老夫婦が天人を疑うところがありますが、能「羽衣」にも同じようなやりとりがあるところが面白いですね。

(文責:麗華)
 「羽衣」に使われる作り物・小道具
「羽衣」に作り物があったかな?はて?と思っていたら、ありました、天人の羽衣を掛けておく「松ノ立木」が必要でした。

「羽衣」といえば「和合之舞」「彩色之伝」の小書きの場合が多くて、常の「羽衣」を忘れがちになります(私だけでしょうか)。「和合之舞」「彩色之伝」は「松ノ木台」を用いない、一ノ松の匂欄に長絹を掛ける演出なのです。

作り物として登場する樹木は、「石橋」の牡丹のように一畳台の隅に木を立てる形式と、「羽衣」の松のように立木台に固定する形式があります。また立木台の台輪の形には流儀により角台と丸台があり、観世流と宝生流では角台を用いるようです。しかし「松風」の松など台の回りを回る所作がある時は、丸台を用いるようです。
ついでながら樹木ではありませんが、「賀茂」の矢も、この同じ立木台に立てられます。

(文責:映)

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