今月の特集曲

「安宅」の舞台
舞台は加賀の安宅の関。現在の石川県小松市での出来事です。
奥州に向かう義経一行が、難関である安宅をいかに突破したかが劇的にえがかれた、緊張感漂う物語になっています。 今回はその典拠となった「義経記」にスポットをあてて、 「安宅」について考えてみましょう。

「義経記」では、富樫介というのは加賀の大名で源頼朝から命令を受けたわけではなく、ひそかに警戒して義経を待ち受けていましたが、 実際に義経に会うことはありませんでした。それどころか 1人で富樫の屋敷に乗り込んだ弁慶が勧進のためにやって来たと言うのを信じて寄進するほどでした。もちろん弁慶は来月中旬に戻ってくると言って実際に受け取ってはいませんが。
能「安宅」を思わせる危機的状況で乗り切ったのは、むしろ愛発山の関守で、色白で出歯の者はすぐに縛り上げられていました。 そこへ羽黒山伏に変装した義経一行が着たのですから大騒動になり ますが、弁慶の機転と山伏の知識で乗り切ります。 それにしても、弁慶の饒舌には恐れ入りました。 必要な時には嘘も方便なのかもしれませんね。

(文責:麗華)
「安宅」と「虎の尾を踏む男達」
 『虎の尾を踏む男達』(黒澤明監督’45年)という映画をご存じですか?
 能楽『安宅』を題材に、というよりそのまま映像表現された作品です。「旅の衣は篠懸の、露けき袖やしをるらん」など折々、女性コーラス風に謡が聞こえ、お囃子がBGMに! 能楽ファンには何とも楽しい映画です。
 俳優の白いメイクや手足の大ぶりな動きは娯楽作品として最小限の範囲、あるいは歌舞伎『勧進帳』風でしょうか?
 義経役には岩井半四郎(若い!)があたっています。他は弁慶・大河内傅次郎、富樫・藤田進、山伏の中には志村喬の顔も。また興味深いのは強力(アイ)役を喜劇役者・榎本健一(エノケンさん)が演じていること。ただ底ぬけの明るさではなく、生活感(この場合は逃亡者としての悲哀かな)ある狂言的ユーモアで弁慶の隣でおどおどしたり、喜んだり、素直だけれど好感のもてる表現をされています。同監督は後年『乱』で池畑慎之介を起用しましたが、アイの役割を映画の中で上手に生かされる方だったように思います。
 60分弱と能楽を見るより短い作品です。機会があればご覧になっては如何でしょうか。いつもと異なる『安宅』体験が、あなたを待っているかもしれません。

(文責:映)

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